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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(五)金の鯉

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(五)金の鯉 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 136,062 characters · 276 screens

Aozora Bunko

行きましたが、――」

「…………」

良海尼は始めて涙を呑みました。

「この庵寺に住んでいるうち、ツイ眼の前の材木置場を釣場にして、三日に一度、五日に一度、豪勢な行列で殺生に来るあの男を見ると、私の心には、昔の怨みが蘇生りました」

「…………」

「金の鯉を釣場の下に投込んで思い知らせ、せめて真人間の心に返させるつもりでしたが、そのお国さんとやらが、悪性男を水の中に突き落したのを見ると、あの男の重ねた罪業が目に見えるような気になり、この世の女人のために、――多勢の親と夫のために、――私は思わず、見覚えの小屋の道具箱から、手馴れた鑿を取り、着物のままで、水の中に飛込んでしまいました」

「…………」

「降魔利生の鑿は岩から鮑を剥がすよりも楽に、悪性男をあの世へ引渡してしまいました。これは、良いこととは少しも思いません。御仏に仕える身で、まア、私としたことが、何という大罪を犯してしまったことでしょう。南無――」

尼は仏壇の方に向き直って、ヒタと掌を合せました。滂沱と頬に流れるは声のない涙、――それに合せて、どこからともなくすすり泣く声が起ります。

一番先に畳にひれ伏したのは、お国、お舟の二人の姉妹でした。