Japanische Klassiker mit Furigana
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やまをおもう
山を思う
石川 欣一
Lesen Sie 山を思う (やまをおもう) von 石川 欣一 (いしかわきんいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 79.814 Zeichen · 157 Bildschirme
一四
針ノ木のいけにえ
一四
まだ二月の末なのに、何というあたゝかさだろう。このまゝ春になって了うのか知ら。それとも、また寒くなるのか知ら。とにかく今晩は、蚯蚓も鳴こうというあたゝかさだ。
子供の時には、こんな晩のあくる朝、きっと輜重兵第一大隊か、近衛四聯隊から喇叭が聞え、そして風がすこし強いと、喇叭と一緒に練兵場の砂ほこりが舞い込んで、二階の縁側がザラザラになったものである。中学時代には、こんな晩、テニソンの詩を読んで、「若者の幻想」云々にアンダー・ラインを引いた。高等学校時代には、ハイネの「すべての蕾がめぐむ時」を口吟みながら、我が胸の一隅に恋愛の種子をはぐくんだ。これでも僕は詩人だったのである。今だって、こう急にあたゝかい日が来れば、四五日さきの月末に支払う可き金や返すべき金のことはすっかり忘れて、幻想にふけりはする。だが如何にクレーヴン・ミックスチュアの紫煙に見入っても、それは、BAH! 要するに中途半端な、中年者の幻想に過ぎないのである。
針ノ木のいけにえ
松本から信濃鉄道に乗って北へ向うこと一時間六分、西に鹿島槍の連峰、東には東山の山々を持つ大町は、安曇高原の中心として昔から静かに、ちんまりと栄えて来た町である。