Japanische Klassiker mit Furigana
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へいけがに
伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
岡本 綺堂
Lesen Sie 伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集 (へいけがに) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 203.094 Zeichen · 411 Bildschirme
去年か今年か、なんでも曽てこんな楽しい記憶があったように思いながら、小坂部はそれが何時のことであったかを、はっきりと思い出すことが出来なかった。
さみだれらしい雨がしとしとと降っていて、夜は蛙の声に静かに更けてゆくらしかった。経脚のような小机に倚りかかって、何かの歌集を読んでいる若い女の姿が小坂部の眼の前に浮き出した。縁をたどって来る足音が軽くきこえて、明かり障子の前にとまると、女は読みさしの歌集をかいやって、表の方に眼をくばった。燈台の灯に照らされたその女の顔は、かれ自身であることを小坂部は初めて知った。それと同時に、若い男――桜の林の中で見いだした若い美しい男の顔が、ほの暗い燈台の前にまぼろしのようにあらわれた。二人はここでもやはりなんにも口を利かなかった。どこかの隙きから洩れて来る夜風に燈台の弱い灯はゆらゆらと顫えて、人を酔わすような空の匂いが部屋いっぱいに薫っていた。
まぼろしの絵巻はそれからそれへと繰りひろげられて、小坂部は夢のなかで夢を見ているようにも思った。そのまぼろしの影がだんだんに薄れてゆくと共に、かれの魂もだんだんに消えて、自分のからだが空洞になってゆくかとも思われた。