Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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やまをおもう

山を思う

石川 欣一

Lesen Sie 山を思う (やまをおもう) von 石川 欣一 (いしかわきんいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 79.814 Zeichen · 157 Bildschirme

Aozora Bunko

山に登る理由

いろいろなことが詰らなくなる。何をしていゝのか判らない。「ワーッ!」と騒ぎでもしないと、やり切れないような気がする。仕事が手につかぬ。――つまり急激な変化が生活に起った後だからであろう。心とからだとエクイリブリゥムが打ちこわされるからであろう。

まったくこれ位、急激な変化はあるまい。山の道具をつめたスーツケースを梅田の駅にあずけておいて、自分は会社に出る。所謂五分の隙もない夏服、ネクタイ、靴下、白い靴、その晩は二等の寝台にねて、翌朝はもう山の麓である。宿屋なり、友人の家なりに着くとスーツケースをあけて、登山の仕度をする、夏帽子は古いフェルトに変る。蕭洒な夏服は、十年着古したホームスパンに変る。やわらかい、薄いシャツは、ゴバゴバしたカーキのシャツになる。クロックスの入った絹の靴下を脱いで、あつぼったい、不細工な、ウールの靴下を三足もはく。白い、どうかするとダンスでも踊りそうな靴のかわりに、大きな鋲をベタ一面に打った登山靴をはく。一年中ペンと箸とナイフ位しか持った事のない右手は、アイスアックスの頭を握る。かくて山へ! すでに一歩山へ入ると、その前日までコクテールグラスの外側に浮く露を啜っていた唇は、直接に雪解けの渓流に触れる。