Japanische Klassiker mit Furigana
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こざくらひめものがたり
小桜姫物語
浅野 和三郎
Lesen Sie 小桜姫物語 (こざくらひめものがたり) von 浅野 和三郎 (あさのわさぶろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 136.097 Zeichen · 267 Bildschirme
反対の草叢へ移ってまいりました……。その時たちまち、右手に高く、御秘蔵の御神剣を打り翳し、漆の黒髪を風に靡かせながら、部下の軍兵どもよりも十歩も先んじて、草原の内部から打って出でられた命の猛き御姿、あの時ばかりは、女子の身でありながら覚えず両手を空にさしあげて、声を限りにわあッと叫んで了いました……。後で御伺いすると、あの場合、命が御難儀を脱れ得たのは、矢張りあの御神剣のお蔭だったそうで、燃ゆる火の中で命がその御鞘を払われると同時に、風向きが急に変ったのだと申すことでございます。右の御神剣と申すのは、あれは前年わざわざ伊勢へ参られた時に、姨君から授けられた世にも尊い御神宝で、命はいつもそれを錦の袋に納めて、御自身の肌身につけて居られました。私などもただ一度しか拝まして戴いたことはございませぬ……。』
これが大体姫のお物語りでございます。その際命には、火焔の中に立ちながらも、しきりに姫の身の上を案じわびられたそうで、その忝ない御情意はよほど深く姫の胸にしみ込んで居るらしく、こちらの世界に引移って、最う千年にも余るというのに、今でも当時を想い出せば、自ずと涙がこぼれると言って居られました。