Classiques japonais avec furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans
「まるで、道行だ!」
「お稲さんの量見がわからねえ」
「古い、色男かな」
「そうじゃあない!」
「嫌往生……?」
「それにしたって、合点がゆかねえや」
「どうするんだ、見ているのか」
「見ているよりほかにしかたがねえや、助けに行けば三五兵衛っていう奴の刀が、お稲さんを刺す気でいるのだ――親分でもいなければ手がつけられねえ」
と、部屋の者はこう囁いて、皆、大刀を鞘におさめ、性もなく凍えきッた手を、ふところの奥に拱んでしまった。
すると、賛之丞は、急に吾に返ったように、一同の前へ手をひろげて、
「そうだそうだ、よく分別してくれた。助けるつもりで彼奴にかかって、もしお稲さんが刺し殺されたら、留守の親分に対して申しわけがない、親分に対して第一にこの賛之丞が……」
「何を言やがるんでいッ」
途端に、がやがやとしたかと思うと、どさくさまぎれに、賛之丞の頬や頭へ、いくつもの拳が降った。
「てめえの情婦じゃねえか。まぬけめ!」
しばらくして、村上賛之丞が気がついて見た時には、もう鮎川部屋の者はひとりもそこにいなかった。
お稲も、安成三五兵衛も。
ただ、八寒の世界のように霜と氷と涙ばかりがあった。