Classiques japonais avec furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans
三
「でも、返辞を書くぐらいな事……。それ程なお心も、私には、ないのでございましょう」
ああ、平凡だ。
尠なくも、一角が経験した女の数では、こんな会話では、欠伸を感じる。
でも――無碍には、あしらえなかった。出戻りのお八重は、丈八郎の留守の間を、貪るように戯れた。
すると、外にいたお信が、
「あっ、兄様が!」
ばたばたっと家の中へ、駈けこんで来て、姉へ告げた。
「帰って来ました。兄様が」
「えっ、丈八郎が」
お八重は、ふるえ声で、
「あなた。はやく……。裏口から」
一角は、うごかなかった。後ろの脇差へ飛びついて、片膝を立てたのみである。お八重は、顔いろを――身の置場を失って、意味の聞きとれない言葉を発しながら、一角の手をつかんで、無理に、無性に、
「ここにいては。裏! ……あっ、いけない、そこの納戸へ」
一角は、その手を、振り払って、
「――退いていろッ」
三
途端に。
ばさっと、庭先の連翹の花が、嵐みたいに揺れた。垣を踏みこえて来た激しい物音から、一箇の人影が、縁側へ、躍り上がった。
「――おのれっ、一角だな」
「おっ、木村丈八郎か」
「人の噂は、嘘でなかった。近頃、城下をうろついている犬みたいな浪人が、わしの留守へも、忍んでくると言っていたが、おのれ、何しにここへ――」