Classiques japonais avec furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans
自暴駕
「あったかも知れない」
「畜生」
仁吉はいきなり、用箪笥にとびついて、がたがたと抽斗を鳴らして、四ツに畳んだ人相書をそこへひろげた。
「お仙、てめえの男は、こいつだろう」
「…………」
お仙の眼は、兇状廻しの人相書へ、惚々と吸われていた。胸のなかには、すぐその男の声や、冷たさや、強さや、いろいろな感情が脈を搏ってひびいてくる。
「これだな! よし、分った」
と、妹の顔いろを読んで、
「てめえ、帰ると承知しねえぞ、禁足だ」
「縁を切ったおまえから、足止めをされるおぼえはない」
「ばかッ」
いきなり、立ちかける腰を擦って、
「こいつ、どうかしていやがる。盗ッ人に惚れるやつがあるか」
「大きなお世話じゃないか」
「降ろさねえぞ、この梯子段から」
「帰りますよ、御勝手に」
「松ッ」
と、下へ怒鳴った。
「――手を貸せ。はやく上がって来い。この色情狂をふん縛って、押入のなかへつないでおくんだ」
自暴駕
「二階の雨戸を閉めておけ。可哀そうだなんて思っちゃいけねえぞ」
下剃の松に吩咐けると、仁吉は、ひどく忙しい用事でもあるように、出て行った。
間もなく、彼のすがたが、天王寺裏の路地へはいって行った。