Classiques japonais avec furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans
二
「鬱々だ、執ッこい」
「江戸へ行っても、他人の家へ、私だけ預けて――なんて嫌なこった。だから、断っておくんですよ」
三五兵衛は、果てしがないと感じて、黙ってしまった。そして、笛ぶくろから、かれの愛笛――八寒嘯と銘のあるそれを抜いて、たまらない重苦しさから、逃げようとした。
昼の雲が――春の紺碧を斑にしている白い雲が明るく、まばゆく、うごいている。
三五兵衛は、頬のそげた顔を、少し仰向けた。そして、ひゅらり、ひゅらり、と横笛をふきだした。
二
――どんな気でいるんだろう?
お稲は、男の吹く笛に、からかわれるような気がした。血が焦々して、それを引っ奪くって、二つに折ってやりたいほどな心に駆られた。
「アア、いやだ!」
と、耳の穴へ、指をかって、
「よして下さいよッ、笛なんか。――馬鹿馬鹿しい」
と、口ぎたなくいった。
でも、三五兵衛が、やめないでいると、お稲は、眼のいろさえ、嶮しくして、
「やめないの」
「…………」
「やめなければ――」
と、横から、笛をつかんだ。
三五兵衛は、眉間をよせて、
「何をするんだ」
「やめないからさ」
「つらいのか」
「私は、この笛の音をきくとぞっとする」