Classiques japonais avec furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans
無宿人国記
女被衣
一
女被衣
一
「蒲団は――お炬燵は――入れたかえ」
船宿のお内儀さんだ。暗い河岸に立って、いつもの、美い声を、張りあげている。
息が、白く、冬の夜の闇に見えた。
寒々と更けた大川の中で、
「おう」
と、船頭の答えをきくと、かの女は、河岸づたいに、五明楼の庭へ戻って、
「あの……船のお支度が」
と、女中へ告げた。
上杉家の国家老、千坂兵部は、茶屋の若主人や、廓から送ってきた女たちの小提灯にかこまれて、ひょろりと、手拍子に、
さても見事になあ
振って振りこむ花槍は
雪かあらぬか
さっさ ちらちら白鳥毛
振れさ どっこい
「お履物を――」
「殿様、おあぶない、肩にお手を」
兵部は、眸のながれたような眼で、明りにつれて、海月みたいに、ふわふわとうごく、無数の女の顔を、見まわして、
「――船は、どこじゃ。船は」
「庭に、船は上がりませぬ。お履物をはいて、河岸の桟橋まで、おひろいを」
さても是非なや
兵部はまた、広間に聞える槍踊りの丹前節に、低声をあわせて、
――なびかんせ
台傘、立傘、恋風に
ずんとのばして
しゃんとうけたる柳腰
「きゃーッ」
前へ歩いて行った女の小提灯が、ふいに、人魂みたいに、宙へ躍った。