Classiques japonais avec furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans
「でもね、たった一つ、もう一つ、私……頼みが」
「どんなこと」
「もう百両ほど、江戸の家へ送ってやれば、それで私は、死ぬまで、ここにいられるのだけれど、何とか、できる?」
「さ……」
「出来ない?」
「できなければ」
「私しゃ、死ぬかも……」
「えっ、ほ、ほんとかい」
「あら、かんにんして。――うそ、うそ、今のはうそ。そんなに心配しないで」
濡れた睫毛が、手の甲へ。
百は、あまりに苦しかった。でも、その宵の夢を――ふしぎな未知をひらかれた夜を、かれは、うれしくって忘れ得なかった。
あくる日、お稲の子を負ぶって、おしげは帰ってきた。百は、母の顔に、すぐ、暗いものを見つけて、
(知れたか)
と、胸がさわいだ。
「おぬしゃ、えらい事をやったの。叔父御も、うわさを聞いて、驚いてござったが、もうしてしまった事は、どうなるべえ。わしも、決して、おぬしに愚痴はいわぬがの……」
お稲の留守をみて、母は、そういった。
「――ただあの女子の気性一つが、心配ものじゃ。それさえよければ、なんの、わしが添う嫁じゃねえだし、どんな、辛抱もするべえにと、ゆうべも遅くまで、叔父御と、おぬしの話で、泣いてしもうたが……百よ、いったい、おぬしゃあ、どう考えているだね」