Classiques japonais avec furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans
百は、聞きとれていた。
ぞっと――何とは知らぬ身ぶるいを、感じながら。
そして、うつつな眼は、一方の草むらへじっと吸われていた。ゴソ、ゴソと、何か黒い獣じみた影が、這ってゆく。――しょう殺たる笛の音に、追われるように逃げてゆく。
虫の息になってまで、助かろう、生きたいと、もがいている村上賛之丞だった。
× × ×
「あっ、寒い!」
百も、後ろを見ないで駈け出していた。元の所まで来て、
きょろきょろと、
「おっ母、どこだい」
「ここじゃ。――百よ、ここにいるがな」
おしげは、露ふかい芒の中の一つ石に、腰をおろして、背なかの嬰児をおろしていた。
「さ、行こうぜ」
「もう何にも、用事はねえかよ」
「ああ、すっぱりと、用事はすんじまった。大川で尻を洗ったような気もちッてなあおっ母、こん夜のことだろうな」
「わしゃ、なんだか、少しべえ名残が惜しいが」
「よしねえ、ぐちは」
「ああよすべえ、よすべえ」
「武蔵野ばかりにゃ月は照らねえ。どこの野末で、馬沓を鍛っても、おら、おめえの一人ぐらい、これから先はきっと安気に送らせるからな」
「そして、おぬしもこん度こそ、よい嫁をさがしての」