Classiques japonais avec furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans
五
「おうっ?」
と、跳びひらいたまま、一瞬、茫となって、畳に、もがいている意外な犠牲者の影を見つめたが、丈八郎は、自分を目がけた一角の刃が、弾みに、罪のないお信を斬ったことに、気がついたので、
「妹の仇っ」
と、喚いて、
「――動くなっ、そこを」
と、小脇差で、突っかけた。
組長屋である、裏の屋敷でも、隣でも、深夜の物音にさわぎ出した様子である。一角は、書院窓を蹴やぶって、縁から、飛び下りた。
盗賊。――盗賊。
そんな声が、八方に聞えて、彼はよけいに戸惑ったが、うしろから、
「卑怯ッ」
と、よぶ丈八郎へ、
「後日っ」
と、言い返して、木戸へ、肩をぶつけて突き破るがはやいか、地を躍って、深い闇へ、魔形に似た提げ刀の光を、何処ともなく、晦ましてしまった。
五
「――斬られたと? だ、だれが」
「盗賊ではないのか」
「灯りを。――どなたか、灯りを先に点けてください」
組長屋のものが寄って、そこに、ぶち撒かれた鮮麗な血と、お信の、むごい姿とを、見た時は、いつのまにか、姉のお八重は家の中にいなかった。
勝手口の戸が一枚、開いていた。――恥かしい! と丈八郎はくちびるを噛んだが、人々が、驚きと、焦燥に、気づかずにいるので、口に出さなかった。