Classiques japonais avec furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans
涼しい木蔭では必ず会う。酒を売る所、三味線のある所、この老人に、出会わないことはない。
「駕屋、一汗拭け」
「ありがとう存じます。――旦那あ、短気だから堪らねえ、この炎天に、こんなに飛ばしたこたアありませんぜ」
「心太でもすするがいい、ああ、ここは涼しそうだ。老爺、床几を借りるぜ」
須賀川並木の一軒茶屋。
松の根がたに、駕を置かせて、ずっと日蔭へはいると、さっきから、馴つッこい顔を向けていた旅商人の老人が、
「おっと、と、と。旦那あ、其処は」
「なんだ」
「よけいなお世話のようですが、さっき掛けた女衆が、嬰児に粗相をさせたんでまだ、尿で濡れている筈で、――お値だんは同じ事、こちらへ、お腰かけなさいまし」
「そうか、女衆の粗相ならよいが、嬰児のでは、あやまるとしよう」
「はははは。飯坂では、だいぶお賑やかなことで」
「二、三度、温泉壺の中で、ぶつかったな」
「旦那も、覚えておいでになりますか」
ぷっと、煙草の火玉をふいて、風に、ころがり出したのを、雁首で抑えながら、
「足かけ二月、永い御湯治で。――てまえが、仙台から、会津福島の花客を、ぐるりっと、一廻りして来ても、まだ御滞在と聞いたには驚きましたな」