Classiques japonais avec furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans
お八重は、今市の茶屋へ、出たばかりな女だった。道中悪にかどわかされて、そこへ、捨て売りにされただけに、素人くさいのと、武家出の女という事が、酉兵衛の心をうごかした。金で、花街から抜くとすぐ、中禅寺の乾分の家にあずけて、時折、
(どうだ、景気は)
などと、そのお八重を連れて、二人で、見せびらかしにでも歩くように、賭場へ出ることもあった。
で、一角とも、場所で、二度か三度は、会ったはずである。――だが、お八重は、にも、彼との事などを、酉兵衛に洩らしている気遣いはなかった。
きょうは、細尾の身内に、祝い事があるので、山を降りた。お八重は、それをどんなに待ちかねたろう。酉兵衛が、駕でというのを、何のかのと、歩かせて来たのも、彼女の考えからだった。
「みろ、言わねえ事じゃねえ。ぽつぽつ、降ッて来たじゃねえか」
「でも、相傘なら、いいじゃありませんか」
傘の蔭から、お八重は、時々、後ろを気にしていた。そして、跫音を感じると、
「あらっ」
と、不意に、傘の手を離して、それを、追うように見せて、身を交わした。
「あぶねえ。大谷川へ墜まるなよ」
雨に、眼をつぶりながら、振向いたとたんである。