Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans

Aozora Bunko

百助を斃して、一心不乱に窯焚きをしている若者二人の影、その時、ありありと姿が読まれた。

絵描座の兆二郎と、久米一の娘、棗であった。

絵師兆二郎は元よりただの細工人ではない。加賀大聖寺の武人の血をうけ父は九谷陶の窯元である。多少の呼吸も心得ている上に、今は恩人最後の大業を、命にかけても焼き上げようとする一念があった。焦熱の懸命があった。

窯は音をたてて最高度まで焔をあげ夜はほのぼのと明けかけて来た。紅蓮地獄にふさわしい漆紅葉の真っ赤なのが、峰から降り、窯の火ッ気に煽られて、飜々と空に舞い迷う。

やがて海嘯のような声が揚った。

山峡の細道を伝って、夥しい捕手の数が黒髪山へ乱れ入った。が、捕手の目は、御用窯の前に落葉に埋もれた百助の死骸を見出したのみで、棗の姿も兆二郎のかげも、遂にひねもすの山狩むなしく見ることができなかった。

ただ、二人をあきらかに見送っていた者は。

山目付の鈴木杢之進。

峰の頂、伊弉諾の尊の髪塚に立って、程近き間道を手に手をとって、国境へ逃げてゆくふたりの姿を認めたのである。

が、――しかし、杢之進、その時、その若人たちの前途に、明るき春あれ幸あれと、祈る心は湧いても、無慈悲な飛縄を飛ばそうとは、露ほども思わなかったのである。