Classiques japonais avec furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans
「では連れて帰っても……」
「金は」
と、誰か、するどくいった。
「へい、ここに」
そして、すばやく堂裏の暗がりに、嬰児を抱いて居竦んでいたお稲の手をとって、人ごみから闇へ紛れてしまった。
と――黒い人影のなかを泳いで、百のあとをさがしていた、なで肩の若い浪人は、
「はてな、どっちへ?」
と血眼をくばって、
「オオ」と、かん酒屋の灯がならんでいた寺前を、八王子の方へ、走りかけた。
どん、と誰かの胸に、胸をぶつけて、優がたの浪人は、二歩ばかり、よろめいたが、
「ご免――」
と、そのまま、すりぬけた。
「おい」
と、それを、さびた声がひきとめた。
はっと、思うとすぐにまた、
「村上賛之丞」
と呼ぶのである。
鮎川部屋の用心棒――といっても、男のいいかわりに、弱いのでは、甲州でも知られた村上は、ぎょっとしたように、
「誰だっ」
と、いった。
立ちどまって、こっちを見ていた編笠は、笠の前つばを、ヘシ折るように剥り上げて、
「おれだよ」
と、蟷螂みたいに、頬のそげた顔を見せた。
「あっ……」と、賛之丞は、顔いろをかえた。約束されたもののように、さっと、青ざめて、立ち竦んでしまった。