Classiques japonais avec furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans
彼の特徴のある草履の音は、ぴた、ぴたと何時のまにか、辻行燈の灯よりしかない屋敷町を歩いていた。
ふと「洗心洞塾舎」という看板が眼についた。
「洗心洞」
聞いたような名である。
「あ、そうか。有名なる大塩中斎の屋敷だな。するとこの辺りは、与力町と見える」
歩いているうちに、同じ程度の構えの、とある屋敷へ、新町と書いた提灯をつけた駕籠が、三挺、横づけになって、潜りの中へ、人影を送りこんだのを、治郎吉は、物蔭から見ていた。
一挺には、仲居か、芸子か、とにかく送って来た女らしいのが、門にははいらずに、見届けて、そのまま空駕籠といっしょに、引っ返して行った。
「よし、仕事は、あの屋敷と極まった」
治郎吉は、呟いた。――主人が遊里から遊び疲れて帰った家などは、彼にとって、またとない仕事場だった。そういう屋敷へはいって、失敗した例はほとんどない。
草履をたたんで、腹巻と帯のあいだへ。そして、彼は、ぽんと、塀の見越へ跳び乗った。――後は、音もしない。
中で、ゆっくりと寝こみを待つ考えなのである。
泉水がある、築山がある。庭は、松が多い。かなり清楚な、そしてひろい庭である。