Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans

Aozora Bunko

小藤次はまた、とても、この野にある猛獣が、眼の不自由な、外記とふたりの力では、制し得ないものと、初めから考えていたので、

「この子のためを、なぜ考えぬ。義賊雲霧仁左衛門の末路を、なぜ、いさぎよくせぬか」

と、叱しては、逃げていた。彼の疲れと、自覚を待つように。

だが、もう彼の耳には、入らなかった。小藤次の期待は反対になって、雲霧は、暴れ猪みたいに迫った。子を取り上げた小藤次は、かえって、その子が邪魔になって来た。彼の烈しい匕首を交わしつつ、足助川の絶壁へ、転げ落ちてしまった。

「あッ……。俺の子ッ」

崖っぷちの灌木に縋って、彼が、泣くような叫びを谷間へ投げた時、探り歩きに、追いかけてきた外記が、

「やッ、よくも父を」――と、仰天して、自暴的に、宙へ、十手を抛り捨てると、腰の刃を、抜き打ちに、雲霧の背へ斬りつけた。

くわッ、と振向いた雲霧は、横っ飛びに避けると、勢いよく、灌木の根へ走った刀の手元をつかんで、それを、引ッ奪くった。

「――来てくれッ。大変だッ」

茶店の夫婦が、山小屋の木挽だの、石切工だのを、呼び集めて来てみた時は、もう、雲霧はいなかった。

ずたずたに斬られて、そこへ俯伏せになっていた高梨外記は、もう虫の息もない。