Classiques japonais avec furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans
七
よい程に聞いて、蒲団をかぶった。
そして、夜具の中で、ジッと目をつぶりながら、さっきの夜鷹の顔を思いうかべた。だがあの瞬間に強く襲われた白粉の顔も、もう種々な疑惑に掻き乱されて、纏まりもつかない印象となっていた。
「まさか!」
と、彼は無理に心を落着けようとして、
「……人違いだ、気のせいだ……いくら何でも、まさか養母が夜鷹などに」
と、心で叫んだ。
しかし、その一方では、またすぐに、
「だが、よく似ていた。白粉こそ濃く、六年前よりも若く見えたけれど……」
七
とうとうその晩は、お咲のことや、安南絵の壺のことや、亡父の臨終のことなどを考え出してマンジリとも眠れなかった。
で、翌朝。
「少し、風邪を引いたあんばいですから、今日だけ一日休ませて貰います」
亀親方に言って、また一日簑虫のようにくるまってしまった。
ゾロゾロ部屋の者が出払ったあとで、親方の銅鑼屋の亀さんも、中風の身を冒して珍しく何処かへ出て行った。
左次郎は何にも邪げられずに、好きな事を考えていられた。もし養母のお咲が江戸にいたって、裕福である気遣いはなし、仲間の一平と往来で出会っても、討つ力がないことは、自分にも分っている。