Classiques japonais avec furigana
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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
Lisez 蔦葛木曽棧 (つたかずらきそのかけはし) de 国枝 史郎 (くにえだしろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 335 908 caractères · 669 écrans
彼女は承知したのである。
「いよいよ敵に接近出来る。こんな嬉しいことはない。恋も、若衆も何も不用ぬ。一太刀なりとも怨めたら、この身は八つ裂きにされてもよい」
堅く決心したのであった。
「それにしても今日まで白髯の殿が、敵の木曽殿と気づかなかったとは、ほんにこの身の不覚であった」彼女にはそれが口惜しかった。
輿は静かに揺れながら行く。やはり誰も彼も無言である。こうして幾刻かの刻が経った。
その時、流れる木曽川の音が、一層烈しく音を立て、その水音が乗っている輿のすぐ下から聞こえて来た。
「輿を止めろ」と武士の声が、厳めしく重々しくその時云った。
「へい」と輿舁ぎの答える声。と、輿はそのまま停まったのである。
すぐ輿のタレが上げられた。武士の右手が長く延び、鳰鳥の手首をひっ掴んだ。
「鳰鳥、でませい」と武士が云う。
鳰鳥は輿から下り立った。と、眼の前に拡がった景! それは夢で見る景色であった。あの一刹那の仮死の瞬間に、彼女が絶えず見る景色であった。
……前には大河が泡を噛んで大蛇のように走っている。背後には鬱々と茂った山が、夜空に矗々と聳えている。明るい美しい陽はないが、その代り満天の星の数が、豹の眼のように光っている。