Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

ja-reading.com

Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.

しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

Lisez 新編忠臣蔵 (しんぺんちゅうしんぐら) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 337 181 caractères · 676 écrans

Aozora Bunko

衣桁の蔭

ふと……

その衣桁が、ひとりで揺れて仆れかかった。

十郎左は、びくっと振り向いて、

『……?』

槍の白い穂先を、衣桁の蔭へぴたと向け、凝と、息をひそめていた。

隠れている人間がある!

しかも女だった。

ここにも、幾人かの警固はいたであろうに、それ等のすべての者が逃げ失せてしまった後まで、何うして、こんな所に、一人で潜んでいたのか?

――だが十郎左には、その謎が解けているらしいのであった。なぜならば、衣桁の蔭におののいている女の眸と十郎左の眸とは、その間の槍もないように、凝とむすびついているからである。女の眼には涙がいっぱいだった。十郎左の眼にも、ふと、血とも涙ともつかない情熱の珠がきらきらしていた。

『……あぶないぞ、出るな』

わずかに十郎左が云った。

『…………』

女は嗚咽を、肩でこらえていたが、そのふるえが、衣桁にも小袖にもふるえてくる。

その時――

また、ここの抜穴に気づいた者があるとみえ、跫音がした。がやがやと声がした。

『オオ……』

十郎左は、いささか、狼狽したらしくみえる。――もう一言と思ったことばを、彼は云いそびれてしまったのだろう。颯っと身をひるがえすと、先刻、主税と岡右衛門の出て行った裏口の雪明りへ、彼のすがたも躍り出ていた。