Classiques japonais avec furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans
「……あ。来ていやがる」
治郎吉が、そう見たのは、うしろ向きに坐り込んでいる客だった。ゆうべも、声を聞いた床屋の仁吉にちがいなかった。
「どうだね、お喜乃さん。諄いたようだが、決して、悪いこたあすすめねえから、とにかく四、五日お屋敷へ、勤めてみちゃあどうだい」
仁吉は、しきりと、雄弁をふるっていた。その話の内容がどんなものかは、治郎吉には分りすぎていた。
お喜乃は、病人を憚るように、
「親方さん、もうその話なら、なんど伺っても同じですから」
「嫌かい、やっぱり」
「いくら先様が、立派な武家様でも、妾奉公などということは、父が承知するはずもございませんし、私も、死んでも……」
「おっと、待ちな。……だが、俺がちらと聞いた噂によると、おめえは、何か纏った金の要り用があって、新町の紅梅から芸妓に出るという話じゃねえか。芸妓になるがいいか、与力衆の重松左次兵衛様のお世話になるのがいいか、それくらいなこたあ、比較てみたって、分りそうなもんだが」
「ま……誰にそんなことを、聞きましたか」
「それや、おめえの世話をしようという以上、身許から内輪のことまで、すっかり調べねえでどうするものか。