Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans

Aozora Bunko

その襟もとを、力まかせに――極度な怒りをこめた腕で――捻じ切るほど締めたのである。

「うッ畜生ッ。ううッ……うううむ……」

と、権内は、四肢を痙攣させ、眼を上に吊った。――長い呻きを曳いて、肋骨を反らした弾みに、ぐたっと、雲霧の手から離れて、二つほど醜く転がった。

すると、小屏風の蔭で、

「あれッ、お父様がッ」

雲霧は、はっと、飛びついて、

「しッ、静かにッ」

と、蒲団から刎ね上がった、娘の身体を、両腕に、抱き抑えた。ぼきっと、折れはせぬかと思われるほど、細い――痛々しい――人間の春は遠く去っている娘の肉体だった。

「騒ぐなッ、し、静かにしてくれ。――な、なにも驚くこたあねえよ。……もう俺ア、決して、決してあんな乱暴は」

必死に、爪を立ててもがく娘の口を、彼の掌が、蓋をしていた。そして、羽交いじめに抱いたまま、その顔をのぞき込むと、自分の掌と、痩せこけた娘の顎の間から、絹糸のような血がタラタラと垂れたので、

「やッ? ……舌を」

と、彼は、思わず手を離した。

朽木のような細い体は、とたんに、黒髪を重そうにして、仰向けに、倒れた。――蝋より白い死の顔は――その唇は、鬼灯をつぶしたような血の塊を含んでいた。