Classiques japonais avec furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans
笠もあるし、振分も置いてあるのに」
「外へ出て、谷間の紅葉でも眺めているんじゃねえか」
と、針屋は、口を、むしゃむしゃ動かしながら、何の気なく、店先へ出てゆくと、いきなり物陰から、彼の二の腕へぴしっ、と十手が唸ったと思うと、
「雲霧ッ。御用ッ」
と、眼のわるい武士――高梨外記が呶鳴った。
あッ――蹌めいてきた雲霧の首すじへ、二度目の十手が、その頸動脈を狙って走ったが、眼のわるい外記、手元が狂って針屋の雲霧に、かえってその腕くびを掴まれたと思うと、
「えいッ、何しやがる」
肩越しに、軒先へ、投げつけられた。
すると、ほとんど一緒に、裏口で茶店の女房が、異様な声をあげた。――不意に、女房の乳ぶさから無心な子を、鷲のように、抱き攫った高梨小藤次は、その悲鳴をうしろに、家の横を駈け抜けて、往来から、
「雲霧ッ。この子が可愛くないか」
「やッ――」雲霧は、さけんだ。
悪の闇から足を抜いた後は、ただ一つ、その子の可愛さに生きて――また生きようとして、細い針商いと、乳貰いに、今の若さを旅の垢につぶしながら、惜しいとも思わずにいる雲霧だった。
「縛につけッ、雲霧、神妙にお縄を頂戴いたせ。