Classiques japonais avec furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans
黙々と、そして緩やかに、艪をうごかしていた船頭は、頬冠りをした手拭の耳に、ひらひらと風をうけながら、
「あっしに、陸へ上がっていろというんですか」
と、訊き直した。
「そうだ。――少し混み入った話があるから」
「嫌だ!」
「なにッ」
「嫌なこッた」
「これっ、船頭の分際として、客のいいつけをきかぬという法があるか。船をつけろ」
「笑わしゃがる」
豆しぼりの手拭が、つばさをひろげて、波の上へ飛んだ。
治郎吉だった。
「こうお喜乃さん。落ちるとあぶねえよ。艫へ来て、おれの足に、しがみついているがいい」
「やっ」
仁吉は、恟っとしながら飛び退いて、
「てめえは、鼠小僧だな」
「む」
と、治郎吉は、盗ッ人にありそうもない笑靨を見せて、
「感心に、てめえも、知っているか。――大兄哥の面をよく見ておけ」
とたんに、左次兵衛は、羽織を脱いで、舟から水面へ躍りこんだ。岸へ向って、泳ぎ出したのである。
「しまった」
と、治郎吉は舌打ちをして、
「仕事は急がざなるめえ。やい、自雷也」
どこに置いてあったか、道中差を、抜くよりはやく、ふりかぶって、
「命はもらった!」
ばっと、風を割って落した。