Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans

Aozora Bunko

近ごろ陶工久米一の生活は、がらりと打って変ってしまった。

何人も覗かせぬ、細工場の陶戸を閉めきって、一生一品の製作に精進しているのだ。

彼が、これを最後として作りにかかっているのは、窯焚きの百助が、自分を罵った言葉に着想を得た、増長天王二尺余の像である。

久米一は元より柿右衛門の神経質な作を嫌い、古伊万里の老成ぶったのはなおとらなかった。で、この増長天王にあらん限りの華麗と熱と、若々しさと矜と、自分の精血を注ごうとする意気をもった。

深沈たる真夜中。

陶戸の中の久米一は、素地を寄せて一心不乱に箆をとった。ミリ、ミリ、彼の骨が鳴って、箆の先から血が滴りはしまいかと思われる。

轆轤にかかる彼の姿は、鬼のように壁へ映った。そして、夜をつみ、日をついで、釉薬染付の順に仕事が進んだ。

ところが、人の寝しずまる頃になると、久米一は、物の怪に憑かれたように、仕事のひとりごとを洩らすのであった。

箆の秘伝、釉薬の合せ、彼が今日までおくびにも出さない秘密を、みなブツブツとひとりごとに説き明し、そして増長天王の仕上げにかかっていた。

不思議な――? と思うと、またここに怪しいのは娘の棗の部屋。