Classiques japonais avec furigana
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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
Lisez 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 162 213 caractères · 325 écrans
「見られたか、ご両所。郁次郎の刑を、百日のあいだ延期いたすということは、この江漢のことばではない。老中のご命令でござるぞ」
「あっ?」
と、ふたりは、それへ、疑惑の眼を研ぐように、顔を近づけて、
「これは、不審だ。すでに、老中ご一統の裁可に依って、郁次郎の断罪をお認めあったものを、ふたたび、延期せよとは心得ぬお沙汰じゃ」
「――ではこのお書付を偽筆といわるるか」
「よしや、直筆なるにもせよ、一老中のご意見で、法をうごかすなどという例はない。もってのほかな僭上というものであろう」
言い争っているところへ、役宅の方から、あわてて、それへ駈けて来たのは、奉行の榊原主計であった。また、奏者衆の小笠原左近将監であった。
「ひかえろ」
奉行の声に、
「はっ」
と、東儀と羅門は、それへ、片膝を折って、指を地についた。
左近将監は、厳かに、
「今日、処刑するはずの塙郁次郎、吟味不充分のかどあるによって、証拠がためとして、百日の延期を命じる」
と、ことば短く言い渡して、
「追って、くわしくは、上様のご印可をいただいて、後刻、公の書状をもって当所へお達しするであろう」
そう言って、すぐに、ひき揚げてしまった。