Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(九)不死の霊薬

野村 胡堂

Lisez 銭形平次捕物控(九)不死の霊薬 (ぜにがたへいじとりものひかえ) de 野村 胡堂 (のむらこどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 144 106 caractères · 292 écrans

Aozora Bunko

銭形平次捕物控

一

一

ガラッ八の八五郎は、こんないい心持になったことはありません。

親分の銭形平次の名代で、東両国の伊勢辰でたらふく飲んだ参会の帰り途、左手に折詰をブラ下げて、右手の爪楊枝で高々と歯をせせりながら、鼻唄か何か唄いながら、両国橋へ差しかかって来たのは真夜中近い刻限でした。

借着ながら羽織を引っかけて、懐中には羅紗の大紙入、これには親分の平次が、人中で恥を掻いちゃ――と一分二朱を入れてくれたのですから、自分の身上、六十八文と合せて、八五郎すっかりいい心持になったのも無理のないことです。

折柄の月夜、亥刻(十時)を過ぎると、橋の上もさすがに人足が絶えます。

「おや?」

ガラッ八は立止まりました。ツイ眼の前へ、人魂のようにフラフラと行くのは、後ろ姿ながら若くて美しそうな娘、何やら思案に暮れる様子で、深々と顎を埋め、襟の掛った秩父絹の袷、塩垂れてはいるが、赤い可愛らしい帯、すらりと裾を引いて、草履の足音も、ホトホトと力がありません。

娘はガラッ八の跟いて来るのに気が付かなかったものか、よろけるように欄干に凭れると、初冬の月を斜めに受けて、鉛色に淀んだ川の水を、ジイッと魅入られるように眺め入りました。