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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

それにして頸筋にも手足にも、それらしい徴候があらわれていず、むしろその手は細く白く、上流の産まれを想わせるほど、華車でもあり上品でもあった。垢づきよごれた襤褸をまとい、履物さえはいていなかったが、体つきには高雅な品があった。

容貌もおそらく美しかろう。

が垂れ布に蔽われて、誰も見ることは出来なかった。

あるいは容貌が醜くすぎるので、それを恥じてそのように垂れ布で、顔を隠しているのかもしれない。

前方谷川に向かっては、栗の木がまばらの林をなし、後方低い丘に向かっては、馬酔木が丈余の叢をなしてい、その中ほどの草の原に、襤褸と垢と蚤虱とに包まれている不具の流浪者が、八人がところかたまって、蠢めきながら話しあっている様子は、向こうで三人の妖艶の裸女が、水浴をしているのと対照的に、みにくく浅ましく奇怪でさえあった。

「岩の上に立って歌っている女、こっちへ向いてくれると嬉しいのだがな」

こう云ったのは前身が屠者で、他人の牡牛を盗んだ咎で、両耳を剃り落とされた中年者であった。

「ゆっくりここに構えていようぜ。するとあの娘がこっちを向いて、笑いかけてくれるというよい運命にだって、ぶつからないものでもないからなあ」