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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

これはどうしたんだ?

小次郎の姿が見えないではないか!

でも十数間のかなたにあたって、抜き身を肩にし、裾をつまみ上げ、小鹿のように軽快に、藪を巡ったり木立をくぐったりして、木洩れの月光の燻し銀の光を、斑紋として全身につけた、小次郎その人が走っていた。

ポカンと右衛門は突っ立ってしまった。

機先を制されたからである。

(いけねえ俺、年イ取った)

刹那右衛門はそう思った。

(若い奴には敵わねえ)

が、すぐ猛然と思い返した。

(負けねえ、追いつく! 追いついて殺す!)

で、猪のように追っかけた。

しかしどんなにヒイキ目に見ても、深林地帯のこの競走は、オトッツァンの方が負けるでしょうよ。

第一オトッツァンは年寄りだし、それにさんざんジラサレテ、くたくたに体をつからせている上に、持ち物というものがご自慢物ではあるが、二十貫の鉞というのであるから。

そこへいくと青年小次郎は、年が若くて気力は旺盛、ジラした方でジラされていない、持ち物といえば細味の太刀で。

まさに小次郎は悠々としていた。

チョイチョイ背後を振り返りながら、

(あんまり速く走るのも、トシヨリに対して考えものだ)