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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
釜からは湯気が立ちのぼり、岩の天井にぶつかって、滴となって落ちて来た。
釜の中でグラグラ煮えているものは、その犬や狐の臓器であった。
釜のかなた、この部屋の奥から、四筋の燈明が射して来ていた。
その光と炉の焔とに、朦朧と照らされて見えているものは、畳み上げられた岩の上に、白木で造られた戒壇であった。
御幣、七五三縄、真榊の類が、そこでも焚かれているごまの煙りや、炉から吹き出している墨のような煙りや、湯気などに捲かれて見え隠れしている。
壇上に坐りこちらへ背を向けた、鬼火の姥の行衣姿が、物の怪のように見えていた。
読経の声と鈴の音とが、絶えずそこから聞こえて来た。
釜の側に二人の男がいた。
二人ながら姥の眷族で、二人ながら屠者であった。
手に持っている薄刃の庖丁は、獣の血と膏とでネチネチしていた。
腕も胸も顔までも、獣の血で赤黒く穢れていた。
二人ながらクタクタに疲労れていた。
煙りと火気と臭気と殺戮とで、疲労しきっているのであった。
どうしても贄釜が鳴らないという、その恐怖と責任とですっかり心を怯えさせていた。
恐怖と当惑と疲労との眼を、二人は時々洞窟の隅へ、助けを乞うように投げることがあった。