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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

「浮藻?」

そう浮藻であった。

浮藻は小次郎へ縋りついた。

「小次郎様! どんなにわたしは!」

もう後には言葉はなかった。

連続した叡山の裏山の危難、やっと遁がれて旅へは出たが、その旅も決して幸福ではなかった。そうして今は敵ともいうべき、関東軍に捕えられ、生死のほどもおぼつかない。……それらの艱難の重なりからでもあろう、浮藻は痩せて衰えていた。

ふくよかだった頬はこけ、眼の周囲には隈さえ出来ている。

「浮藻殿!」

と小次郎は云い、その可憐しい肩を抱いた。

旅へ出て以来小次郎は、むしろ厳格に過ぎるほどに、浮藻に対して振る舞った。

それは自分をこのような男に、育て上げてくれた桂子に対する、恩と義理とのためであった。

桂子その人に捧げている、小次郎の心持ちというものは、あの泰西の騎士なる者が、自分を庇護してくれる貴婦人に向かって、捧げているところの心持ちと、ほとんど変わりないものであった。

忠誠と犠牲と奉仕とであった。で、どのように浮藻に対し、愛を感じ恋を感じていても、桂子より許しのない限り、とげようなどとは思わなかった。

で、旅へ出てからも、一緒にいるというばかりで、指一本触れ合おうとはしなかった。