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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
それは裸体の男であり、活躰解剖を行なわれ、そのまま捨て置かれた犠牲者らしく、胸から腹、腹から股、股から爪先まで血の簾が、紅絹を裂いて懸けたかのように、いまだにヌルヌルと流れていた。
顔は全く解らなかった。
人間の男の頭髪の代わりに、何んの獣ともわからなかったが、獣の毛が頭に生えていて、それが前方へパーッと下がり、顔をかくしているからであった。
浮藻は眼を閉じ躰を固くした。
悪寒が全身を貫き通し、顫えがどうしても止まなかった。
そういう浮藻を枕もとの方から、これも立て板に結いつけられた、裸体の女が見下ろしていた。
が、その女の二つの乳房は胸のどこにも見られなかった。
その女には乳房がないのであった。
で、そこだけが窪んでいて、二つの珠が箝め込まれていて、その珠の中央に、漆が点ぜられていた。それはそっくり眼であった。
そうして、臍のある位置にあたって、三日月を下向きに懸けたような模様が、黒く刺青されていて、わずかにその女が呼吸をするごとに、それが口のように蠢めいた。
その女が黒い布でも冠って、そういう腹部を露出して、ムキ出しの脚で歩き廻ったとしたら、胴体がなくて巨大な顔から、足のつづいた化物として、何んとよい見世物になることだろう!