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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
と、こわい眼付きをして睨みつけ、縁づたいに女房の部屋の方へ行った。
襖をそっと細目にあけて、内の様子をうかがってみると、かき立てた燈火の横に坐り、所在なさそうに慎ましく、蓬生は暦を繰っていた。
(美い女ぶりや、粗末にはしまいこと)
久しく留守にして見なかったからか、大弥太には女房が美しく見えた。
そこで大変満足して、
「女房、わしじゃ、帰ったぞ帰ったぞ!」
襖をあけて内へはいった。
「まあ」
蓬生は驚いて云い、繰っていた暦を横へ置いた。
その前へ大弥太は坐り込み、酒びたりや性慾づかれで、眼袋などの出来ている顔へ、多少テレた表情を浮かべたが、
「まずご免、のっけに謝まる。何んといっても家をあけて、一月も二月も帰らなかったのだからのう。……さて女房にもご両親様にも、お変わりござなく候や、うかがい上げ奉り候なりさ。……アッハッハッ、これくらいでよかろう。……当家の総領でありながら、玄関にもかからず下僕かのように、コソコソと裏口からあがり込んだ心状、察してこの辺で勘弁してくれ。……や、それにしても蓬生殿、しばらく離れて逢ってみれば、京女郎にも負けないほどの縹緻、美しいぞ美しいぞ! ……とんだ大弥太は果報者よ、よそへ行けばよその女にもて、家へ帰るとよい女房に……もてると思うがどうだろうかな」