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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

姥の怒りと焦燥とが、虫や鳥獣にも伝わったらしい、山猫は背を立て毛を逆立て、足を踏ん張って唸り声を上げ、梟は枝から舞い上がり、焚火の上を輪のように舞い、蛇はとぐろをほぐし出した。

と、一匹の縞蛇が、五尺あまりの太紐のような体を、焚火にテラテラ光らせながら、鬼火の姥の足に搦み、胴の方へ這い上がった。

姥はほとんど夢中であった。

「しめたぞ! 奪った! 連判状は奪った! ……逃げる逃げる逃げる逃げる! ……それさえ奪ったら大丈夫! 逃げな逃げな早く逃げな!」

蛇は胸まで這い上がった。

「あッいけない! 斬られた――ッ」

と、姥はバリバリと歯を噛んだが、夢中で蛇を両手で握り、

「ム――、残念、取り返された――ッ」

蛇は二つに千切られて、ダラリと延びて下がったが、千切れた口から滴った血が、焚火の上へこぼれたらしく、腥い匂いがひろがった。

「範覚範覚! 範覚!」

と、突然姥は呼ばわった。

「行ってみようぞ、館の前まで」

すぐに、

「オ――ッ」

という声が聞こえた。

社殿の横に碑があって、なかば雑草に蔽われていたが、その蔭に若い山伏が、さっきから膝を抱き首を垂れ、コクリコクリと居眠りをしていた。