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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
吉野へ!
竹原入道は仰せかしこみ、その準備にとりかかった。
この頃楠木正成のもとより、
「千早に城を築く以前に、赤坂の城を奪回仕り、関東方の胆を寒からしむる所存」
という、痛快な報知がもたらされた。
さらに吉野の衆徒からも、また高野の衆徒からも、
「宮方へ加担」
という報知が来た。
「着々事が運んで行く」
宮家は悦喜しましました。
そうして宮家御自身には、一挙に京都へ征め上り、両六波羅を滅ぼそうものと、よりより軍備あそばされた。
しかし、この頃宮家の御心を、すこしく暗くする出来事が起こった。
熊野の定遍が狡智をもって立てた、例の立て札が功を奏し、吉野十八郷の荘司のうちに、武家方に加担し宮方を裏切り、この身に害を加えようとする者が、幾人か現われたことであって、玉置の荘司や芋ヶ瀬の荘司は、それに疑がいなさそうであった。
(油断は出来ない)
と、おぼしめした。
まめまめしく仕えていた竹原入道の息子、左源太、右源次の二人の若者が、この頃ほとんど館にいつかず、どこへ行くのか外出ばかりし、時々帰って来るかと思うと、宮家の御眼を避けるようにするのも、御心にかかってならなかった。