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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

フラフラと寄って来た。

「人殺し――ッ」

と小次郎は叫んだ。

咽喉へ切っ先がつきつけられても、武士である小次郎は気が弱くとも、まさかに人殺しとは叫ばなかったであろう。

が、女怪さながらの姥に、唇や頬へさわられるとあっては、恐怖し叫ばざるを得なかった。

「助けてくれ――ッ、おれ敵わん!」

果然助け船があらわれた。

この時まで附近の小路の中に、ひそかに佇み身を隠し、様子を見ていた一人の男が、ツカツカとこの時出て来たのであった。

鬼火の姥の情夫であり、山伏である金地院範覚であった。

金剛杖で大地を叩いた。

「姥よ、病気か、また病気か! ……美少年好みの悪食病か! ……エッヘッヘッ、情けねえなあ」

それから小次郎を睨むように見たが、

「なるほどなあ、こりゃア凄い! 男の俺でさえこりゃア参る! 美しいものじゃ、業平朝臣じゃ! ……やい!」

と威猛高に吼えるように云い、金剛杖を振りあげた。

「行け! 二度とあらわれるな! 鬼火の姥の眼前へよ! ……あらわれたが最後一夜のうちに、骨と皮ばかりにされてしまうぞ! ……な」

と急に声を落とし、

「な、俺にまかせて置け。……姥のような絶倫の精力家には、俺のような絶倫の精力家でないと、ソレ間に合わないというものだ。