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オリンポスのかじつ
オリンポスの果実
田中 英光
「文学界」1940(昭和15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页
「それで、金沢が帰ってきて陸上の連中に話したから、みんな怒っていたよ。二三人で呼びだして、熊本を撲ろうかとまで言っているんだぜ」
ぼくはこれは大変だ、と思いました。とにかく河堀と金沢に会ってから真相を確かめ、その上であなたに逢ってお話をするのだ、と心に決め、柴山の親切に、厚く礼をいってからその場を立ち去りました。
先ず、河堀を捜しに行くとスモオキング・ルウムで、これも丸坊主になりたての頭で、煙草を吹かしていました。「ちょっと」と呼びだし、照れ臭いのを我慢して、あなたの一件を尋ねますと、KOボオイの標準型で立派な青年紳士の趣のある彼はかるく笑い、
「そりゃア柴山の話が大きいんだ。そこ迄ぼく達はみなかった。ただ暗い処を二人でごそごそしていたし、出てきたとき熊本が泣いていて、それをネルチンスキイが慰めていた様子が変だったから、金沢がみんなに話したんでしょう。しかし、ぼくには、なにも他人のことだし、誰にも言いふらしたりしませんよ。安心なさい」
とニヤニヤ笑いながら、ぼくの肩を叩きます。マドロス・パイプを乙に銜え、落着いて煙をくゆらす彼の態度にはなにか信用できるものがあって、ぼくはくれぐれもその噂を打消すように頼むと、こんどは、階段を飛ぶように降りて、金沢の船室を叩いてみました。