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よっつのみやこ

四つの都

織田 作之助

「映画評論 第一巻四号」1944(昭和19)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,005 字 · 62 页

青空文庫

四七 矢野名曲堂。

テントの外へ、シルクハットの頭を出していた来賓の頭上へも、雨が降る。

来賓慌てゝ、頭をひっこめて、シルクハットを取る。頭が禿ている。

観覧席、雨で動揺する。

その中に、蜂谷十吉が、まるで当然の如くまじっているのが、不気味だ。(雨男の真髄はこゝに至って完全に発揮されたのである)

初枝、放送する。雨。

初枝「次は女子高等科二年生の薙刀体操であります」

放送しながら、さきに庄平の立っていた処を見る。

しかし、庄平は、もういない。

初枝、失望する。

四七 矢野名曲堂。

葉子、独りでラロの『スペイン交響曲』を聞いて、物想いに耽っている。その音がかすかに裏の休閑地へ聞えている。

その裏の休閑地を、鶴三が耕している。

その横で、夜店出しも一緒に耕している。

鶴三、耕し終って、夜店出しへ声を掛ける。

鶴三「どうやら雨が上ったようだ、今夜は商売が出来ますな」

夜店出し「天気を相手の商売ちゅうやつもつくづくいやになった。雨が降っても槍が降ってもという商売に転業しよ思てまんねん」

鶴三「レコード屋はやりなさんなよ。人間は身体を責めて働かなきゃ嘘だからね」

言いながら家の中へはいり、やがて店へ出て来る。