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よっつのみやこ

四つの都

織田 作之助

「映画評論 第一巻四号」1944(昭和19)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,005 字 · 62 页

青空文庫

五六 口縄坂。

初枝「はあ」

庄平「実は僕は……失敬します」

出て行く。

あまい気持が初枝に残る。

庄平から渡された脚絆の紐に無意識に触っている。

パラリと解ける。その端を見た途端、初枝、笑いだす。

初枝「まあ……」

如何にもおかしそうである。

小使が窓の外を通っている。

五六 口縄坂。

誰もいない。

寂しい白昼の坂である。

やがて、清子が登って行く。

あとより慌てゝ登って行くのは、蜂谷十吉である。

十吉「尾形さん、尾形さん」

清子、ふりむく。

十吉、追いつく。

坂の途中である。坂の上では子供達の胴乗り遊び。

十吉「今日はあんたに別れを告げに来た」

清子「え?」

十吉「僕はあんたより一足先きに南方へ行く事になった、報道班員だ。あんたに会いたいために南方へ行くと思われても構わぬ、事実そんな気持がないでもない、然し行けば大いに働くつもりだ、あんたに会えなくても構わぬと思っている」

清子「…………」

じっと十吉を見つめる。

十吉「南方で僕に会うてもし雨が降っても、もう僕のせいじゃない、南方じゃ毎日雨が降る、スコールという奴だ、もう僕は雨男じゃない、今日は絶対に雨は降らせませんよ」

そう言い捨てゝ、また坂を降りて行く。