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よっつのみやこ
四つの都
織田 作之助
「映画評論 第一巻四号」1944(昭和19)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,005 字 · 62 页
一四 東大寺大仏殿。
一五 大仏殿の附近。
庄平(声だけ)「明日は京都へ行って、大橋先生に相談して来ようと思うんです、今度の仕事の事で」
一四 東大寺大仏殿。
五丈三尺五寸の大毘盧遮那仏。
庄平大仏を見上げている。眼鏡をとって再び見上げる。
一五 大仏殿の附近。
庄平眼鏡をとったまゝ歩いている。
大仏を凝視していたのと、眼鏡をとっているせいで、彼には物がちいさく見えてならない。
庄平一人大きくなった気持で、悠々と歩く。浩然の気!
突然、
「軍医さん!」
と、呼ばれる。振り向くと辻節子だ。(ハワイ帰りのお嬢さん)
庄平、あわてゝ眼鏡を掛ける。とたんに、錯覚が癒り、もう辻節子は実物大に見える。
庄平「あ、あなたでしたか、今大仏を見て来たので、ものが小さく見えて仕方がなかったんですよ、あなたに会うたとたんに、普通の大きさになりましたが」
そう言いながら、そこらあたりじろ/\見廻す。
節子「昨日汽車の中でお眼に掛って、今日また奈良でお会いするなんて、本当に奇遇ですわ」
庄平(稍や冷淡に)「僕は、昨日昭南島で会うた男に、今日ジャワで会うたという経験がありますがね」
節子「これから、どちらへ?」
庄平「いや、別に何処と言って。実は奈良へ来る積りじゃなかったんです、京都へ行く積りで京阪電車に乗った筈が、うっかり関急電車に乗ってしまったので、着いてみると奈良だったという訳です」