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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

彼は放心したように、その鼠色に沈んだ眺めを見やりながら、呟いた。

「少なくとも二人は愛しあったままで、ぴったり心を寄せあったままで、死ぬことができたであろう、あふれるような緊張と、充実感と、よろこびを味わいながら」

生きていれば、いずれにせよ条件の支配を受けなければならない。死ぬことは二人にとって、むしろひとつの完成であった。

どんな連想作用からであるか、そのとき半之助は叔父のことを思いだした。

母親があり、妻子のある家庭をよそに、遠藤兵庫は「かんば沢」に憑かれ、ついにそこで自分の存在をかき消した。妻に不貞があったからか。それだけなら、解決する法があった筈だ。甲府勤番にまわされたのは、道楽が祟ったのだといわれる。どの程度のものかわからないけれども、左遷されるほどの道楽と、妻の不貞とで、叔父は世間や人間の裏おもてを知り、都会生活に厭気がさしたであろう。そして、こういう状態を打破し、改善するより、そこから逃げだしたくなったに、相違ない。甲府へゆくことは、新しい生活を始めることであったが、そこで「かんば沢」という、思いがけないものに、捉まってしまった。

――叔父は捉まった。