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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

地面を掘り、石でたたんだ、ぶきような手製の釜戸から、活き活きと火の舌が伸び、煙がゆるやかに、樹立のさし交わす枝葉の中へと、揺れながら昇ってゆく。

あたりはまだ昏かった。

灰いろの濃い霧が、森いったいを押し包んで、あるかなきかに動いていた。まわりには檜や椹や杉などの、ひと抱えもある樹ばかりで、どの幹も、霧のためにびっしょり濡れていた。下生えの灌木の若葉も、草の葉も、雨のあとのように濡れて、これらのしずくが、厚く散り敷いている、古い朽葉の上に、ときどき音をたててこぼれ落ちた。

霧に押し沈められた、冷たい山気のなかに、しめっぽく蘚苔が匂った。半之助は立てて坐った膝を、両手で抱えながら、なにを聞きいるともなく、うっとりと眼をほそめた。

彼の位置から、ほぼ十歩のところに、ごく細い渓流がある。細いけれども、水は豊かで、水蝕された岩の急傾斜を、さあさあと、快い音をたてて流れている。深い森の中なので、たいていな雨では、濁ることがない。濁っても、せいぜい二日もすれば、きれいに澄んだ。

梢のあたりで小鳥が鳴いた。彼は鳥の名などは、殆んど知らないが、いつも朝はやく、まっさきに鳴きだす鳥で、自分流に「めざまし鳥」