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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

と呼んでいる。

チチチッ チチッ ヒヨヒヨヒヨ チッ

こういったような、よく響く、まろやかな声である、ひと月ほどまえ、三月はじめの、まだ朝の肌寒いじぶんには、梢からおりて、(釜戸の火を恋うるかのように)すぐ近くまで、寄って来たものであった。

うまそうな、味噌の香がし始め、蓋を揺って、汁がふきこぼれた。

彼は濡らした手拭で、鉄のつるを取り、釜戸の脇におろすと、代りに、大きな湯沸しをかけて、立ちあがった。そのとき、「ほっ、ほう……」という声が聞えた。

「ほっ、ほう、ほっ、ほう」

かなり遠いらしい、郭公に似ているが、よく聞くと女性の声である。それは、つぎつぎにやまびこを呼んで、一種の幽玄な反響の尾を、ながくひいた。

半之助はちょっと立ち停った。しかしもう慣れているとみえて、両手で口を囲って、「ほっほう、ほっほう」と谷のほうに向って叫んだ。

それに対する答えはなかった。彼はふり向いて、灌木の繁みを押し分けながら、うしろにある小さな洞窟、というよりも、岩の裂目といったくらいの、暗い穴の中に入り、すぐに食器を持って出て来た。

キョッキョッ キキキッ

頭上の樹の枝で、べつの鳥が鳴きだした。