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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

そしてまた、空想を続けるのであった。

だがこんどは、そう長く楽しむことはできなかった。彼の病気が(彼女の涙ぐましい看病にも拘らず)しだいに重くなって、医者も薬も効かなくなり、もはや死を待つばかりになったとき、山の彼方から、びょうびょうと法螺貝の音が聞えて来た。それは谷に響き、山にこだまして、びょうびょうと、まるで過去からの呼び声のように、息ながく、三度まで聞え、そして、こだまを残して消えた。

「あたし帰ります」

花世は空想から醒めて立った。

「どうしたんです」半之助は笑いながら、「私はたいへん重病になったところでしょう、死ぬんですか助かるんですか」

「あなたが、……あらいやだ」花世はさっと赤くなった、「それはお話だわ、そんなふうになったらというお話よ、でもあたし、もうゆかなくちゃなりませんの、またまいりますわね」

「ではそこまで送りましょう」

「いいえだめ、今日はだめ」彼女は強く首を振った、「今日は此処にじっとしていらっしゃるの、申上げたでしょ、明日になるまではじっとしていらっしゃいって、決して此処から動いてはいけないの、決してよ」

「わけも教えずにですか」