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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
ましたか」
平四郎は黙って歩きだした。
「こいつは危ない、こう思ったんです、それで追い込むのをやめて、人数を集めに戻ったんですが、するとあの大崩壊でしょう、……ひと山ぜんぶ崩れたような感じでしたが、じつにどうも、あのときばかりは私も、前兆に対する認識を改めましたね、こいつは安くみつもっても、金二十枚くらいの値打はあると……どこへゆくんですか」
「ちょっと、あの……」
平四郎は池のほうへ手を振り、坂道をおりていった。
かれらは昨夜半、武田八幡の境内で、みどう一族を包囲して捕えた。(清左衛門はじめ、多くの者は無抵抗であったが)菱屋庄兵衛は斬り死にをし、十数名の者が山へ逃げたので、土地の者を案内に、退路を断って、狩りだしにかかっているところだった。
池の二十間ばかり近くへ来ると、平四郎が主馬を手で制した。
「――なんです」
主馬が眼を向けた。
「いや、このくらいで、……」
平四郎は云いよどんで、それからふらっと手まねをした。これ以上近よる必要はない、というのらしい。さっき登って来たとき、土地の者が、池のそばへ寄ってはいけない、うっかりすると池に呑まれてしまう。