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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

二

ないか。

半之助は首を振った。

――安倍半之助はもう、この世にはいない、おれはもうまったくべつの人間なんだ、此処で会ったことは、誰にも云わないで貰いたいし、このまま忘れて貰いたいんだ。

主馬は、半之助の決心が、動かないものだ、と察したらしい。最後に、――いったい、なにが原因なんだ。と訊いた。半之助は微笑しただけで、返辞はしなかった。

二

蕨平の住居は、土地の者たちが建てて呉れた。

そこは甘利山の頂上へ登る道と、椹ヶ池へゆく分れ道の手前で、雑木林に囲まれた、かなり広い、平地になっていた。水の便は少し悪いが、北と西を茅戸の尾根が巻いていて、風雪を除けるのにいいし、平地の端へ出ると、東北と南に、遠く近く、うちひらけて、重畳たる山なみを、展望することができる。

家は杉皮葺の小さなもので、部屋二つに水屋。うしろに物置小屋があるだけの、極めて簡素なものであった。東がわの小部屋には机を置き、南面の八帖には炉を切った。水屋に続いている土間に、釜戸を造ってあるが、平常の煮炊きはその炉で用が足りた。

食糧や日用の品は、もう韮崎までおりなくとも、土地の者がすべてをまかなって呉れた。