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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

子守りうたかなにかのように、あまやかに、綿々と、彼を包み、彼をあやすように思えた。

ついに甘利山の頂上へ来たとき、花世は息をととのえる暇もなく、「ほっ、ほう……」と叫んだ。胸を張り、声いっぱいに、二度、三度と叫んで、そして半之助に向って、あれを聞け、というような手まねをした。

彼女の声が、山彦になって返って来る。初めは高く、次に低くなり、さらに低く、山彦が山彦を呼んで、しだいに遠く、かすかに、……それはまるで、眠っていた山々の精霊が、彼女の叫びに眼ざめて、互いに呼びあいながら、答え返すかのように思われた。

「――ね、聞えるでしょ」

花世はこう云って、自慢そうに彼を見て、微笑した。半之助も頬笑み返しながら、頷いた。

頂上を西がわへ、少しおりると、かなり広い、平らな、岩の台地がある。花世は彼をそこへ導いてゆき、疎らに生えた草の上に、並んで腰をおろした。そして初めて、さあごらんなさい、と云いたげに、黙って前方へ手を振ってみせた。……かれらの前はすぐに崖で、下は深い森のある谷(そこは霧に掩われていた)になっている。谷の向うに、甲斐駒の連峰の一部が、思いのほかまぢかく、迫って見えた。