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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

「――乙女……」

彼は口の中で囁いた。そして、彼女の髪へ、そっと、頬を寄せた。それは冷たかった、冷たかったが、なにかを伝える冷たさであった。彼女の内部から彼の内部へ、なにか(生命そのものといえるようなもの)を、じかに伝えるように思えた。

――おれは生きている。

半之助は心のなかで呟いた。

――生きることができる。

殆んど痛みのような、深い感動が、彼のなかで、ちからづよく、ひろがってきた。彼は、ふところへ入れた花世の手を、上から押え、眼をつむって、(その感動を慥かめるかのように)じっと息をひそめた。すると、半之助の閉じた眼から、涙があふれ落ち、それが花世の髪毛の中へと、吸い込まれた。谷間から、月光に濡れたような霧が、しずかに、二人のほうへ捲きあがって来た。